■ はじめに

私たちの周りを見渡すと、たくさんの建築物が建っています。
ということは、誰かが設計し、誰かが建築(施工)していることになります。
その設計を生業として藤沢に事務所を持ってから、気が付いたらもう二十数年経っていました。
正確に数えたわけではありませんが、1年間に10棟の設計をしたとしても、すでに200棟を超える設計をしてきたことになります。
おかげ様でいろいろな人と出会い、いろいろな経験をさせていただきました。
建築に興味のある方に、建築士という、資格、仕事について、少しでも知っていただければ幸いです。

 

■ 設計事務所を探せ

設計事務所といえば、建築設計事務所をさすことが一般的です。
しかし、一般の人には、設計事務所なるものがどんなものか、どこに生息しているのか?
ほとんど知られていません。

建築設計はサービス業にあたります。
設計と施工は、一般の人には一緒に写っているかも知れませんが、施工はあくまでも建設業です。
作業分類では別の業種になります。
設計を専門としている設計事務所のほかに、建設会社や不動産会社で本業にプラスして設計事務所登録をしているところも多くあり、また後者のほうがいろんな面でパワーがあるので、設計と施工は、一緒のイメージがあるのだと思います。
市内の電話帳で設計(建築)を調べると藤沢市内だけを見ても、ざっと数えて80の事務所がありました。

設計という仕事は、必ずしも大人数でやる必要もありませんし、駅前やメインの通りで人目に付く場所に事務所を構える必要もありません。(それに越したことはありませんが)

所員数は、一人か二人で、どこかのマンションの一室を借りるか、または自宅で仕事している人が多いのです。
もちろん、組織だった企業の体をなした設計事務所もないではありませんが、全設計事務所の数からすれば、ほんのわずかです。
ですから、知人に建築士がいない人は、はたして設計事務所はどこに潜んで、何をしているのか、わからないのも無理はありません。

 

■ 建築士とは

建築士と名乗るには、国家試験に合格しなくてはなりません。
一級建築士、二級建築士、木造建築士の3種理があり、一級建築士は設計できる建物の模や構造に制限はありませんが、他は制限があります。
一般的な木造2階建ての住宅は、どの資格でも設計できます。

同列に説明するのもおこがましいのですが、
医師も弁護士も、それぞれ専門とする分野ごとに個別の試験(免許)があるわけではなく、免許取得後に外科、内科、小児科などの自分の得意な分野で活躍することになります。
弁護士も膨大な法律の中で、自分の得意な分野があると思います。

建築士免許も同様に専門的な分類はなく、取得後に自分の得意分野で仕事をしていきます。
大きく分けて意匠(デザイン)、構造、電気設備、給排水空調設備、の4種類に分類されます。
建築家と呼ばれる人たちは主に意匠の設計をしています。
現在では、専門分野ごとに建築士を分類しようという動きがあり、建築するために必要な申請(建築確認申請)では、専門分野を受け持った建築士名も記載されます。

建物はその大小に関わらず、4つの分野が必ず必要になります。
そこで、少人数の設計事務所は、そのプロジェクトによって、他の分野の専門家とチームを組み、設計をまとめていくことになります。

 

■ 建築士になりたい?

建築士(建築家)はドラマや小説の主人公になると、カッコよく、よくもてる設定になっています。
現実の壁は厚いです。
東京都庁や表参道ヒルズ、近くでは秋葉台体育館などの設計をした有名な建築家になりたいと学生の時は憧れますが、実力、運とも到底及ばす、設計の仕事そのものをあきらめてしまう人も多いです。

独立して設計事務所を持っている建築士の大半は、個人商店主のように少人数の所員で、コツコツと設計に取り組んでいます。所員が3人もいれば大手です。
企業の体をなしている設計事務所は湘南地方には無いのでは?

建築士のタマゴたちは、そんな環境の中で、これまた漫画家のアシスタントのような仕事をしながら、力をつけて、いつかは独立して自分の事務所を持つことを夢見て、日夜勉強しています。

いくら不景気とは言え、そんな不安定なところに、学校をきちんと卒業した優秀な人材が来てくれるのはまれなことです。
本人がOKでも親御さんの反対もあります。
設計事務所とは、漫画家や料理人のような修業の場と思っていただければ、そんなに間違ってはいないでしょう。

現在では、大学の建築学科を卒業しても、まったく建築と関係なない業種に行く人もいますし、建築関係といっても設計、建設、不動産、ハウスメーカーなど多種に及びますので、わざわざ設計事務所を選ぶ学生は少ないのです。
大手建設会社の設計部にでも入れれば、望む仕事と安定があるのですが。

 

■ 200棟も設計したか!

カッコよく言うと、設計は絵画や彫刻と同じく芸術と考えることができます。
無から生み出した形は皆様の目に触れることになり、社会や景観に影響を与えます。
また、そのなかで暮らす人、利用する人に感動や安らぎを与えることができます。
形をつくると同時に空間をつくっています。
設計図通りに建物はできます。
設計の責任は重大です。

建築、絵画、彫刻が同じ芸術だとしても、建築が絵画や彫刻と違うのは、建築だけは誰かに頼まれないとできないことです。
絵画や彫刻は作者が自分の表現として、制作し世に問うことができます。
しかし建築は、誰かが頼んでくれないとその場所には建ちません。
コンペなどもいろいろありますが、通常の設計行為は依頼されないとできません。
そんな中でよくもたくさんの設計をさせていただいたと、感謝の気持ちでいっぱいです。

 

■ 住宅の種類

一般的な「戸建て住宅」について考えてみたいと思います。
皆様が住宅を取得する場合、初めてであれば、土地を購入しそこに住宅を建てることになります。
または、今住んでいる住宅を建て直すこともあるでしょう。
増改築(マンションも含めて)もあるでしょう。
そんなときの参考になればと思い、簡単な説明をさせていただきます。

 

その1 建売り住宅を買う。

ご存知の通り、すでに完成している建物、または建築中、またはこれから着工のものも含めて、すでにその間取りやデザインが決まっているものです。
車や家電のように現物を見ることができるので、実感でききることと、設計や工事に関する打ち合わせなどをしなくてもいいことがあります。

家を建てることについての、設計や工事の打合せは、とても多様です。
楽しいこともありますが、打合せや仕様の決定が面倒に思えることもあります。
もちろん私も建て売り住宅を設計したことはあります。
最大公約数をめざして、無難な設計をすることになります。

 

その2 建築条件付き住宅

このごろよくあるタイプです。
土地を購入する際、ある一定の期間のうちに工事請負契約をすることが条件になるというシステムです。
つまり、施工する業者(工務店など)が決まっていますので、知合いなどには施工を頼めません。
建売りと違い、これから建築することになりますので、ご自分に合った「自由な間取り」をつくることができます。
通常、その間取りの打合せは2~3回程度のことが多いので、設計の立場からすると、限られた時間では、考え抜いた提案ができにくい、とも言えます。
打合せの回数を増やしたい場合や、設計をご自分の指定した設計事務所で行いたい場合などは、要相談でしょう。
今では同じ建築条件付きでも、打合せ回数の制限をなくしたり、完成まで建築士が監理をするようにした売主さんもあります。

建築士の関わり方によって、設計にかかる費用も違ってくると思います。
私も売主、建築主、どちらからも設計の依頼をされたことがあります。

 

その3 建築に関してなんら条件のない場合

建築条件付きの建物の場合は無理だと思いますが、(それなりの費用を払えば条件を解除してくれるかも知れませんが)もし土地をお持ちか、または建築条件付きでない土地を購入された場合は、まったくフリーな状態で設計と施工を選べます。

 

その3-1 設計施工

建設会社、ハウスメーカーなど、一社で設計から施工までを請け負う場合です。
住宅に関しては、それぞれ標準仕様を持っていることが多く、構造やキッチン、浴室などの設備機器、施工実績など、会社によってアピールポイントは様々です。

設計事務所も設計施工の会社から設計の部分を依頼されることがあります。
設計から施工まで一貫性があり、窓口もひとつなのと、特にハウスメーカーなどは会社としても安定しているので、建築主としては安心される方も多いです。
設計の方針や仕様が決まっていますので、それをあまり変えることができない場合があります。

 

その3-2 設計と施工を分ける

設計を設計事務所に、工事を建設会社にそれぞれ分離して依頼する方法です。
この場合は、設計については納得するまで、プランを練ることができます。
設計図も、どこの建設会社でも見積もりや工事がスムーズにできるように詳細に至るまで作成します。
その図面をもとに複数の建設会社に見積もりをお願いし、妥当と思われるところに工事を頼むことができます。
もちろん、建築主ご指定の建設会社でも結構です。

設計と施工を分けることでのメリットを一言で言うと、自由な設計と見積もりのチェックができること、そして完成まで建築士がおつきあいできることです。
このパターンの場合は「設計・監理」ということになります。
監理とは、設計図通りに工事がなされているかをまさに監理する仕事です。
建築中の軽微な変更などもよくあることですが、それもその都度調整していきます。
これが私の事務所で通常行われているパターンです。

 

■ 設計料って?

建物は設計図がなければ、施工はできません。
どのパターンであれ、設計している人は報酬をもらっています。

その1からその3-1までは、設計事務所が建築主との契約者でないことが多いので、具体的なことは申し上げませんが、その3-2について一般的なことをご説明します。

設計事務所が請求できる設計監理料は建築士法により、定められています。
おおざっぱに言うとそれは、設計する用途(住宅、店舗、事務所などの用途)と規模に対して、建築士が何日かかることになるかの日数に、建築士の日当を掛け算したものです。
木造2階建ての住宅の設計監理であれば、何日間かかるという数値があります。
それに関わる建築士の日当も、免許取得後の経験により単価が決まります。
それに事務所経費や出張費用などを加算した金額になります。

建築士の日当単価の目安になっているのは公務員の給与です。
建築士法による設計監理料の計算をザックリしてみると、木造2階建ての住宅の設計監理料は%換算で、建築費の約20%になります。

1,800万円の建築費の設計監理料は約360万円になります。
と言いたいところですが、これはあくまでも、国が決めた報酬基準です。
実際はどうかというと、建築費の10%程度が一般的です。
このごろの住宅雑誌は設計監理料も記載されていることが多いですが、10%前後の数字をご覧になられた方も多いと思います。
公務員の1/2の単価で働いているわけですから、設計事務所はいつも忙しくしています。

ただ、この設計監理料は、あくまでも建築主と設計事務所との、民と民との契約ですから、50%支払っても設計してもらいたい建築士もいるかもしれませんし、10%は高いと思われる建築主もいらっしゃることでしょう。

建築主と設計事務所とのお付き合いは、最初にご相談を受けてから建物完成まで、一般的な木造2階建ての工事期間4カ月を含んで、最低7カ月。
計画によっては1年以上のお付き合いになります。

その対価として、支払われる設計監理料が建築主にとって有意義だと考えるかどうかの判断はおまかせします。

 

■ 最後に

当たり前のことですが、設計図通りに建築はできあがります。
その設計図は、周辺の環境を読み取り、建築主の生活や将来を考え、居心地のよい空間を提案しているものであると信じています。

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

今まで設計させていただいた何件かを写真で紹介させていただきます。
もしかしたら、どこかで見ていただいているかも知れません。

今、猫2匹が横で丸まって寝ています。

 

      

                        2010年(平成22年)1月

                        吉田アートスタジオ  一級建築士 吉田 靖